どこまでも散歩道~志治美世子ウェブサイト

携帯が鳴って、サヨナラ、桜。

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突然、携帯に見知らぬ家電番号から連絡が入る。
誰かと思ったら、琵琶湖汽船からだった。

来週、関西方面に突如出かけることになった。
友人の幾子が、「大阪で文楽が見たい」と言い出したのだ。
かねてから、
「文楽は大阪で見なくちゃダメ!東京の最高裁判所の隣で、皇居の目の前にどんと座してる国立劇場なんかじゃ、文楽の良さなんかぶっとんじまう。地下鉄駅を上がったら、ごく普通の街の中で、どこぞの田舎芝居の座でもかかってるんかいな、というようなハタがパタパタはためいていて、そこで見る文楽はぐっと庶民的であったかくて、何とも言えずにいい味なんだ」
と主張していた私としては、これはどうしたって、付き合わないわけにはいかない。

大阪のハシシタが「文楽なんかぶっつぶせばいい!」とかバカ言ってるのも腹立ってたし、だいたいがスターが欲しけりゃ松竹という大バックをつけて、豪華襲名披露はし放題、大河ドラマや映画のいいとこ役も取り放題、ってな歌舞伎なんかとは訳が違う。
踊りだって家元制度にがっちり組み込まれてて食いっぱぐれのない御曹司たちであふれかえっている訳じゃなし、若手はもう養成所出身者に頼るしかない義太夫だって地味だし、太棹のお三味線だって弟子にお稽古つけて食える訳じゃない。
人形作り一つだって、一度滅びたら二度とは取り戻せないし、一体の人形を三人で動かすという特殊技能の、それはもう貴重な日本の文化遺産なんだよ、文楽は!

というお話しがありまして、急遽大阪に出かけることになりました。
大阪には会いたい友人もいる。
でも今回は、文楽のみ。

午前中に東京を発ち、2時に福島のホテルにチェックインしたら、4時からの文楽公演夜の部のために、日本橋へ。
翌朝は適時(所要時間はどのくらいだろう?)にチェックアウトしたら、そのまま再び11時からの日本橋の文楽劇場午前の部へ。

一日目の夜公演終了後、せめて効率よく迷子にならずに晩ご飯食べるために、ここだけは人形遣いの桐竹勘十郎さんに携帯メールで、お店を紹介してもらえるようお願いしておいた、「どんなところがいいのか、難しいです。探してみます」とお返事がきたきりだけど。

「こじんまりしていて、落ち着けて、ホテルまでの帰り道で迷子にならないところなら充分です」って、もしかしたらかなり贅沢でやっかいなお願いだろうか?

二日目の文楽昼公演が終わったら、そのまま京都に向かって大津へ。
実は私、まだ琵琶湖を見たことがないんです。

   行く春を近江の人と惜しみたる   芭蕉

ある日、芭蕉の弟子の1人が芭蕉にこう噛みついた。
「季語は動かない(他の季語と交換しても風景が変わらないようではいけない。絶対的必然性がなければならない)はずでなければならないのに、『近江の人』は、動くではないか。行く春を惜しむのは、播磨の人でも摂津の人でもいいではないか」

芭蕉曰く、
「琵琶湖の湖水一面に散った桜の花びらを見ながら、春の終わりを惜しむのである。よって『近江の人』は動かない」

このエピソードを読んだときから、私の中で「いつか奧近江の桜が見たい」との思いが、確かに芽生えた。
しかし、未だにろくすっぽ1人では外出でいない私である。
かつて、一寸の間もないスケジュールを練って、取材に飛び歩いていた私から見れば、今の私など廃人も同様なのだ。

それでも幾子なら付き合ってくれるだろうとメールしてみると、案の定、「まかせる。よしなに」との返事があった。

午後の2時か3時に日本橋を発って、大津に直行。翌日に長浜まで行ってその日のうちに帰京するというスケジュールは、果たして可能なのだろうか?
とかつての私であれば得意中の得意だったこのような検索能力が、今はもう失われて久しい。

一日のうちで、ごく簡単な用事を二つ三つこなそうとするだけで、ほとんどパニックを起こしそうになる(実際になることもある)。
その対症療法として、6時間連続の哲学受講なんかもあるんですけれどね、実は。
一つのことを長くやるのなら、とにかくなんとか出来そうだ、っていうだけのことなんです。

で、すでに計画だけで真っ当な思考力を失いかけ、頭がこんがらがってしまった私を見て「大丈夫、できるよ」と検索で出した交通網の時刻表と付き合わせて、移動にかかる
所要時間を夫がシミュレートしてくれた。
帰りの新幹線は、格安パック故のゴールデンタイムを外した、午後8時便である。

そこで、長浜なのである。
大津からはほぼ1時間であるので、充分にたどり着ける。
観光HPを見ていると、な、なんと「今年は桜の開花が大幅に遅れているので、お花見観光遊覧船の運航を、4月27日まで行います」とあるではないか!
早速電話にて、12時30分発お弁当付き2名を予約したのであった。

  ああ、芭蕉が眺めた「行く春」を、私も眺めることが出来るのだ!

と、そこに今朝の電話である。
「一斉に咲いたと思ったら、昨日辺りからもう散り始めていまして、もう少し日程を早められることは出来ませんか~?」というのんびりとしたいかにも人の良さげな申し出に、
「残念ながら往復と宿の手配も済んでいて、日程もすべて詰まっているので、動かせません。残念ですが、自然が相手のことですので...」
というと、
「でしたら竹生島の遊覧船をこちらでご招待したしますので、ぜひお出でください」

な、なんとご親切なお申し出!
早速竹生島を検索してみると、「わぉ!」
      食事どころが見あたらない...。

12時45分発の遊覧船で、長浜着15時15分。
せっかくの旅行で、一食たりともマズイものを食べることほど腹の立つことはない、というのが、幾子と私の共通価値観であり、かつて(別々の旅行で食べた)伊勢うどんを罵りたおして、一晩の酒の肴にしたことすらあった。

 お昼、どうするの? 遊覧船は片道30分、滞在時間80分で、お昼食べ損なったらどうなるの? お弁当買って、どこかで食べるの?でも、それでもコンビニ弁当じゃイヤなのよ...。

と、再びパニックる私。

予定がぎっしり、しかも二泊三日を着物で通そうか、断念するかの瀬戸際に立たされ、「やはり幾子が一緒のリハビリ旅行とはいえ、無謀な計画であった...」
と不安に苛まれながら、臍を咬むばかりなのであった...。



どなたか大津で晩ご飯食べる場所ご存じの方、教えてください。